2025年6月、東京地裁はキャバクラのキャストを「労働者」と認め、運営会社2社に対して計およそ2,000万円の支払いを命じました。契約書には、業務委託と書いてありました。それでも、判断は労働契約でした。

キャストが雇用か業務委託かは、契約書の名称ではなく、仕事を断れるか・店から進め方を指示されているか・勤務時間や場所を拘束されているか・報酬が働いた時間への対価かという実際の働き方を総合して判断されます。日々どう働かせていたかが、書面の一行より重く見られるということです。

業務委託でキャストを回してきた店にとって、これは他人事ではありません。判断の軸から、この判決で何が決め手になったか、記録を残す意味まで、順に整理していきます。

契約書の名前では決まらない

前提として、ある人が「労働者」にあたるかどうか——これを労働者性といいます——は、契約書のタイトルでは決まりません。労働基準法9条は、事業に使用され、賃金を支払われる者を労働者と定めています。ここで見られるのは書面の名称ではなく、実際の働き方の中身です。業務委託契約書に署名していても、実態が労働者であれば労働者として扱われます。

判断の軸は大きく2つです。ひとつは、店の指揮監督下で働いているかどうか。もうひとつは、支払われるお金が労働そのものの対価かどうか(これを労務対償性といいます)。指揮監督下かどうかを具体的に見るときは、仕事を断る自由があるか、業務のやり方を店が指示しているか、時間や場所を店に拘束されているか、といった点が手がかりになります。報酬についても、働いた時間に応じて払われるのか、成果だけに応じて払われるのかで性格が変わってきます。

つまり「うちは業務委託でやっているから労基法は関係ない」という理屈は、契約書の一行だけでは成り立ちません。中身が伴っているかどうかが、あとから丸ごと問われます。

2025年東京地裁判決で何が決め手になったか

では、冒頭の判決で何が労働者性の決め手になったのか。報じられている範囲では、店側がシフトを決めてキャストの勤務を管理していたこと、報酬が時給をベースに支払われていたこと、タイムカードや日報で勤務時間が管理されていたこと、店長やスタッフの指示のもとで接客が行われていたこと——これらから、キャストは店の指揮監督下にあり、時間的にも拘束されていたと認定されました。

ここに、夜の店にとって皮肉な構図があります。シフトを組む、時給を保証する、タイムカードで打刻させる、黒服が接客を指示する。どれも店を回すために、そしてキャストに正しく払うために整えてきた管理です。ところがその管理の一つひとつが、そのまま「指揮監督下・時間的拘束あり」という認定材料になった。店を守るための仕組みが、業務委託という建て付けを内側から崩す方向に働いたわけです。

言い換えると、雇用のように管理しながら業務委託の看板を掲げている状態が、一番ちぐはぐだということです。管理の実態は労働者、契約書だけ業務委託。この食い違いが表に出たとき、裁判所は実態のほうを取ります。

業務委託で運用したいなら実態もそう作るしかない

業務委託として契約したい場合も、契約書の名前だけでは足りません。仕事を断れるか、店から業務の進め方を指示されているか、時間や場所を拘束しているか、本人の代わりが利くか、報酬が完全歩合かどうかなど、実態を一つひとつ確認します。どれか一つの要素だけでは結論は決まりません。

店舗運営上のシフト調整や接客指示が、どこまで店からの指示や管理(指揮監督)に当たるかは個別の判断です。契約書と日々の運用を並べて、食い違いがないかを弁護士・社会保険労務士等へ確認してください。

実態が雇用と判断されると、未払い賃金、社会保険、労働時間管理などの対応が必要になる場合があります。罰金や給与天引きの論点はキャバクラの罰金制度と労基法で整理しています。

雇用で整えるという選択

もう一方の選択が、はじめから雇用として整えることです。雇用にすると必要になるものははっきりしています。労働条件を明示すること、賃金台帳を作ること、労働時間を把握すること、最低賃金や割増賃金を守ること。手間は増えます。増えますが、線引きが明確になる分、あとから実態を疑われる不安からは解放されます。

そして雇用で必ず必要になるのが、労働時間の客観的な把握です。ここでタイムカードや自己申告の弱さが効いてきます。手書きやまとめ書きの記録では、いざというとき店を守れません。だからこそ、本人がその場で打刻し、あとから書き換えられない形で残す記録が要になります。紙の勤怠がなぜ崩れるのかはタイムカードと手書き出勤簿の限界で詳しく書きました。その、本人がその場で打刻し、あとから書き換えられない客観的な記録を店とキャストの双方に残すために、私たちは出退勤管理システムを作っています。

勤怠記録は、雇用にした途端に増えるコスト——そう見えます。実際は、未払い賃金の請求から店を守る証拠でもあります。払った、払っていないの水掛け論になったとき、客観的な記録がある店とない店とでは、立てる場所がまるで違います。

どちらにしても「記録がない」が最悪

雇用にするか業務委託を貫くか。その答えは、店ごとの規模や運営のかたちによって変わります。専門家と一緒に、実態に合った形を選ぶしかありません。ただ、どちらを選ぶにしても共通して言えることがあります。記録がない状態が、一番まずい。

紛争になったとき、店の手元に客観的な記録がなければ、労働時間も報酬の計算も、相手の主張をベースに組み立てられていきます。冒頭の判決でも、タイムカードや日報という記録の存在が事実認定の土台になりました。記録は、店にとって不利にも有利にも働く両刃の材料です。だからこそ、実態と食い違わない正確な記録であることが効いてきます。

契約形態をどうするかの検討は、時間をかけて専門家と進めればいい。けれど記録の整備だけは、結論を待つ必要がありません。今日の出勤から、本人がその場で正確に残す。そこから始めておいて損はありません。

よくある質問

小規模な店でも今回の判決は関係ありますか?

店の規模は労働者性の判断を直接左右する要素ではない。シフトを管理し時給ベースで報酬を払い、指示のもとで接客させている実態があれば、規模の大小にかかわらず労働者と判断されうるため、実態を専門家に確認したい。

業務委託契約なら残業代や深夜割増は関係ないですよね?

契約名称だけでは適用除外にならない。実態が労働者と判断されれば、深夜割増や残業代の支払い対象になりうるため、契約形態にかかわらず自店の運用実態を社会保険労務士に確認しておくのが安全だ。

過去にさかのぼって未払い賃金を請求されることはありますか?

実態が労働者だったと認定されれば、過去にさかのぼって未払い賃金や割増賃金を請求される可能性がある。請求できる期間は法律で定められているため、具体的な対応は弁護士に確認してほしい。

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