「キャストのインボイス、うちは何かしないといけないんですか」。この質問に答えられる店と答えられない店の差は、税務の知識ではありません。キャストごとの登録番号と年間支払額が、台帳に載っているかどうかです。

先に結論を書きます。キャストを業務委託(報酬払い)にしている店では、免税事業者のキャストへの支払いについて消費税の仕入税額控除に経過措置が適用されており、その控除割合が2026年(令和8年)10月に80%から70%へ下がります。控除割合が下がるほど、店が納める消費税は増えます。だから今やるべきは、キャストごとの登録の有無と、キャストごとの年間支払額を押さえることです。

もうひとつ先に切り分けておきます。日払いのときに引いている10.21%の源泉徴収は所得税の話で、インボイスは消費税の話です。現場では混ざりやすいのですが、まったく別の税目です。ここを分けるところから始めます。

源泉徴収10.21%とインボイスは別の話

ホステス等に報酬を支払う際の源泉徴収は、所得税を店が預かって国に納める仕組みです。日払いのたびに10.21%を引いている店は多く、控除額の計算方法も含めて日払いの源泉徴収10.21%で整理しています。

一方、インボイス(適格請求書)は消費税の仕組みです。店が売上で預かった消費税から、仕入れで払った消費税を差し引いて納める。この差し引きが仕入税額控除で、控除するには原則として相手が発行した適格請求書が要ります。所得税と消費税は税目が違い、計算する場所も納める時期も別です。

だから「源泉徴収はちゃんと引いているから、インボイスも大丈夫だろう」という整理は成り立ちません。逆に「キャストはインボイス未登録だから源泉徴収も不要」というのも違います。同じキャストへの同じ1回の支払いに、所得税の論点と消費税の論点が別々にぶら下がっている、と考えてください。

なぜ免税事業者のキャストで店の負担が増えるのか

キャストを業務委託にして報酬を払っている場合、その支払いは店から見れば課税仕入れにあたりえます。つまり仕入税額控除の対象になりうるということです。相手がインボイス発行事業者として登録していれば、適格請求書を受け取ることで支払いに含まれる消費税相当額を控除できます。

ところが、キャストの多くはインボイス未登録の免税事業者です。年間の売上規模から課税事業者になる義務がなく、登録すれば自分で消費税の申告・納税が発生するため、あえて登録しない人が多い。この場合、店は適格請求書を受け取れないので、原則としてその支払いについて仕入税額控除ができません。控除できない分は、そのまま店が納める消費税の増加になります。

ただし、いきなり全額控除できなくなるわけではなく、免税事業者等からの課税仕入れには経過措置が設けられています。仕入税額相当額の一定割合を控除できる扱いで、いま適用されているのが80%。この割合が2026年10月に切り替わります。

その前に、自店がこの話の当事者かどうかを確かめてください。消費税の免税事業者である店には、そもそも納める消費税がありません。また簡易課税制度や2割特例を選んでいる場合、控除額は売上から計算するみなし仕入率で決まるため、実際の課税仕入れの中身で控除額が変わりません。自店がどの課税方式かは、顧問税理士か直近の消費税申告書で確認できます。本則課税で申告している店が、以下の影響を受けます。

経過措置は2026年10月に80%から70%へ

国税庁の令和8年度税制改正特集によれば、免税事業者などインボイス発行事業者以外の者からの課税仕入れに係る経過措置は、適用期限を2年間延長したうえで控除できる割合が見直されました。整理すると次のとおりです。

  • 令和5年(2023年)10月1日から3年間(令和8年9月30日まで)は80%控除
  • 令和8年(2026年)10月から2年間は70%控除
  • 令和10年(2028年)10月から2年間は50%控除
  • 令和12年(2030年)10月から1年間は30%控除
  • 令和13年(2031年)10月1日以降は控除できません

改正前は2026年10月から3年間50%控除の予定だったので、直近の落ち込みは緩やかになりました。とはいえ下がることに変わりはなく、しかも段階が増えたぶん、2026年・2028年・2030年・2031年と切り替わりのたびに負担が動きます。一度試算して終わりではなく、同じ計算を何度か繰り返すことになる、という前提で構えておくのが現実的です。

もうひとつ、上限の規定があります。一のインボイス発行事業者以外の者からの課税仕入れの合計額(税込み)が、その年または事業年度で1億円を超える場合、その超えた部分については7割・5割・3割控除を適用できません(改正前は10億円)。これは令和8年10月1日以後に開始する課税期間から適用されます。1人あたり年間1億円という水準は多くの店では届きませんが、売上の大きい在籍者を抱える店ほど、支払額を人ごとに集計しておく理由になります。

自店の負担がどう変わるかを3ステップで試算する

やることは3つです。ひとつめ、キャストごとに登録番号の有無を確認する。登録済みなら登録番号(Tから始まる13桁)を控え、未登録なら免税事業者として区分します。ふたつめ、キャストごとの年間支払額を集計する。日払い・週払いが混ざっていても、1年分を1人ずつ足し上げます。みっつめ、免税事業者に該当するキャストへの支払額の合計に対して、控除割合が変わったときの差額を出します。

桁の感覚をつかむために、単純化した例で見てみます。税込100万円の報酬を払った場合、そこに含まれる消費税相当額はおよそ9万1千円(100万円×10÷110)です。控除割合80%ならおよそ7万3千円を控除でき、70%ならおよそ6万4千円。差はおよそ9千円です。免税事業者のキャストへの年間支払額の合計が3,000万円なら、その30倍でおよそ27万円が年間の負担増、という桁感になります。

この数字はあくまで目安です。実際の消費税額は課税方式、割戻し計算か積上げ計算かといった選択、対象となる課税期間の区切り方で変わります。それでも、桁が分かるだけで打ち手の優先順位は決まります。年間数万円なら手当ての必要は薄く、数十万円以上なら契約や単価の見直しを検討の俎上に載せる、という判断ができるからです。

逆に言えば、この3つがそろっていないと税理士に相談しても話が進みません。「キャストは何人が登録済みで、未登録の人にいくら払ったんですか」と聞かれて答えられなければ、前提の数字がないまま一般論を聞いて終わります。相談の価値は、持ち込む数字の精度で決まります。

キャストに登録を求めるべきか

負担が増えるなら登録してもらえばいい、と考えたくなります。ただ、キャスト側から見れば登録は無条件の善ではありません。インボイス発行事業者になれば消費税の課税事業者となり、申告と納税の義務が生じます。事務の手間も、手取りの減少も本人にかかる。断る人がいて当然の話です。

ここで店が踏み込みすぎると、別の問題が生まれます。公正取引委員会は、免税事業者との取引について注意喚起をしています。取引上の地位が優越している買手が、仕入税額控除ができないことを理由に、一方的に著しく低い価格を設定して相手に不当な不利益を与え、応じない相手との取引を停止した場合には、独占禁止法上問題となるおそれがあるとされています。「登録しないなら報酬を下げる」「登録しないなら切る」という通告は、この形に近づきます。

一方で、価格の見直しそのものが禁じられているわけではありません。同じ公正取引委員会の整理では、仕入税額控除ができないことを理由に価格引下げを要請し、再交渉のうえ双方納得して価格を決めたのであれば、結果的に下がったとしても独占禁止法上問題となるものではない、とされています。ただし再交渉が形式だけで、実質は店の都合で著しく低い価格を押しつけたのなら、優越的地位の濫用として問題になりうる。分かれ目は「一方的か、話し合ったか」です。

実務としてできるのは、登録済みと未登録を台帳で分けたうえで、契約更新や条件見直しのタイミングに、説明と合意の場を用意することです。どこまでの説明で足りるか、どんな条件変更なら問題にならないかは、店の規模や取引の実態で結論が変わります。条件変更に踏み込む前に、弁護士や税理士へご確認ください。一方的な条件変更は、トラブルと法的リスクの両方を招きます。

雇用(給与)で払っているなら、この話は起きない

ここまでは業務委託で報酬を払っている前提の話でした。キャストを雇用して給与として払っている場合、給与は課税仕入れにあたらないため、そもそも仕入税額控除の対象になりません。控除できないものが控除できなくなることもないので、インボイスの論点は生じません。

ただ、これは「雇用にすれば得だ」という話ではありません。雇用にすれば労働基準法の適用、社会保険、残業や有給の扱いといった別の論点が一式ついてきます。消費税の負担だけを見て契約形態を動かすと、税で減った分を労務で払うことになりかねません。

そして重要なのは、雇用か業務委託かは契約書の表題では決まらないということです。シフトで出勤を管理している、時給制で払っている、といった実態から労働者と判断されれば、契約名が業務委託でも雇用として扱われえます。判断の材料と勤怠記録の関係はキャストは雇用か業務委託かで整理しています。契約形態の変更を検討するなら、税と労務の両方を見られる形で、税理士と社会保険労務士に相談してください。

支払台帳が整っていれば、税制が変わっても追える

ここまでの話は、突き詰めると1つのことに戻ります。誰に・いつ・いくら・何の名目で払ったかが1か所に残っているか。残っていれば、控除割合が変わっても集計と試算をやり直すだけで済みます。残っていなければ、変わるたびに日払い伝票とLINEの履歴を突き合わせる作業が発生します。

夜の店の支払いは、そこが崩れやすい構造をしています。日払いの現金、月末の振込、体験入店の当日払い、送りのドライバーへの支払い。名目も方法も分かれていて、記録が別々の場所に散らばる。この状態で「未登録のキャストへの年間支払額」を出そうとすると、1年分を手作業でかき集めることになります。切り替えが2026年・2028年・2030年・2031年と続く以上、その作業を何度も繰り返す形になります。

逆に、支払いの記録が人ごとに積み上がっていて、そこに登録番号の有無が並んでいれば、集計は条件を変えて出し直すだけです。税制の変更に強い店というのは、税務に詳しい店ではなく、支払いの記録が1本になっている店のことです。

私たちは、そこを引き受けるために給与計算システムを開発しています。日払いも振込も同じ台帳に載せ、キャストごとに登録番号の有無を持たせて、期間を指定すれば人ごとの支払額をそのまま集計できる形にしました。税額そのものを判断する仕組みではありません。税理士に相談するときに、前提の数字をその場で出せる状態を作る仕組みです。

よくある質問

キャバクラキャストインボイスの登録は必要ですか?

キャスト本人に登録の義務はありません。多くのキャストは免税事業者で、登録すると消費税の申告・納税の義務が生じます。影響を受けるのは、業務委託でキャストに報酬を払っている店側で、未登録のキャストへの支払いについて仕入税額控除できる割合が段階的に下がっていきます。

2026年10月から経過措置の控除割合はどうなりますか?

国税庁の令和8年度税制改正特集によれば、令和5年(2023年)10月1日から3年間は80%控除、令和8年(2026年)10月から2年間は70%控除、令和10年(2028年)10月から2年間は50%控除、令和12年(2030年)10月から1年間は30%控除、令和13年(2031年)10月1日以降は控除できません。

業務委託キャストが免税事業者だと、店の消費税はどれくらい増えますか?

目安として、税込100万円の報酬に含まれる消費税相当額はおよそ9万1千円で、控除割合が80%から70%に下がると差はおよそ9千円です。免税事業者のキャストへの年間支払額が3,000万円なら、年およそ27万円という桁感になります。実際の税額は課税方式や計算方法で変わるため、試算は税理士へご確認ください。

自店が簡易課税を選んでいる場合も影響がありますか?

簡易課税制度や2割特例では、控除額を売上から計算するみなし仕入率で決めるため、実際の課税仕入れの中身によって控除額が変わりません。消費税の免税事業者である店にも、そもそも納める消費税がありません。本則課税で申告している店が影響を受けます。自店の課税方式は直近の消費税申告書か顧問税理士に確認してください。

キャストに登録を求めたり、未登録を理由に報酬を下げたりしてもいいですか?

公正取引委員会は、取引上優越した地位にある買手が仕入税額控除できないことを理由に一方的に著しく低い価格を設定して不当な不利益を与え、応じない相手との取引を停止した場合、独占禁止法上問題となるおそれがあるとしています。一方で再交渉のうえ双方納得して価格を決めた場合は問題とならないとされており、分かれ目は一方的かどうかです。条件変更の前に弁護士や税理士へご確認ください。

源泉徴収の10.21%を引いていれば、インボイスの対応は不要ですか?

別の税目の話なので、対応が不要になることはありません。ホステス等の報酬から引く10.21%は所得税の源泉徴収で、インボイスは消費税の仕入税額控除の話です。同じ1回の支払いに、所得税の論点と消費税の論点が別々にぶら下がっていると考えてください。

キャストを雇用(給与)にすればインボイスの問題はなくなりますか?

給与は課税仕入れにあたらないため、仕入税額控除の対象外となり、インボイスの論点は生じません。ただし雇用にすれば労働基準法や社会保険といった別の負担が生じます。また雇用か業務委託かは契約書の名称ではなく実態で判断されるため、契約形態の変更は税理士と社会保険労務士の両方に相談したうえで検討してください。

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