「悪質ホストクラブの規制でしょう。うちはキャバクラだから関係ない」。2025年の改正風営法について、この受け止め方をしている店は少なくありません。報道の見出しがホストクラブ一色だったので、無理もない話です。ただ、条文を見るとそうはなっていません。
今回追加された遵守事項(法18条の3)の名宛人は、ホストクラブに限定されていません。キャバクラを含む接待飲食等営業の営業者全般が対象です。料金についての虚偽の説明、いわゆる色恋営業、注文の意思表示前に飲食を提供して困惑させる行為。この3つは、業態を問わず接待飲食等営業であれば守るべき事項として置かれました。違反すれば指示処分から営業停止、最終的には許可取消しまで進みます。
改正法は令和7年(2025年)5月28日に公布され(法律第45号)、主要部分は2025年6月28日、欠格事由の拡大は2025年11月28日に施行されています。一方で、ネット上には「売掛が禁止された」「キャバクラもスカウトバック禁止の対象になった」といった不正確な説明も出回っています。何が変わり、何が変わっていないのか。そして令和7年に実際に処分された件数の内訳まで見たうえで、店舗の点検項目に落としていきます。
ホストクラブだけの話ではない
今回の改正の発端が悪質ホストクラブの問題だったのは事実です。高額な料金を負わせ、支払えなくなった客に売春や性風俗店での勤務をあっせんする。その連鎖を断つことが立法の動機でした。だから報道も「ホストクラブ規制」として扱われました。
しかし、できあがった条文の書き方は業態を名指ししていません。遵守事項の追加は「接待飲食等営業を営む者」に対して課されており、キャバクラ、クラブ、ラウンジ、スナックのうち接待飲食等営業の許可で営業している店は、いずれも同じ枠の中にいます。ホストクラブだけを狙った条文ではなく、接待をともなう飲食店の営業全体に共通のルールを1段追加した、という理解が実態に近いです。
この違いは実務で効いてきます。「うちは色恋営業なんてやっていない」と思っていても、追加された遵守事項の1つめは料金についての説明です。後払いや掛払いの説明を含めて、料金について虚偽の説明をしたり、客に誤認させる説明をすることが禁じられました。セット料金の説明、延長時の課金、指名料やボトルの扱い。ここの説明が実際の会計とずれていれば、色恋営業とは無関係に遵守事項の話になります。料金の伝え方は、どの業態でも避けて通れません。
追加された3つの遵守事項
法18条の3で追加された遵守事項は3つです。順に整理します。
1つめが、料金についての虚偽の説明・誤認させる説明の禁止です。ここには後払いや掛払いの説明も含まれます。「今日は持ち合わせがなくても大丈夫」と言いながら、その場で発生する債務の総額や支払期日を伝えていないような説明が問題になります。店内掲示の料金表と、実際に客に口頭で説明している内容と、伝票に載る金額。この3つが食い違っていれば、誤認させる説明だと指摘される余地が生まれます。掲示物の要件は店内掲示物と料金表示のルールで整理しています。
2つめが、いわゆる色恋営業です。条文はもう少し具体的で、客が接客従業者に恋愛感情を抱き、相思相愛であると誤信していることに乗じて、「関係が破綻する」といった趣旨のことを告げ、客を困惑させて遊興や飲食をさせる行為を禁じています。「今日入れてくれないと私たち終わりだよ」という一言が、そのまま条文の想定する場面です。ホスト・キャストどちらの性別でも構造は同じで、業態も限定されていません。
3つめが、客が注文の意思表示をする前に飲食を提供して困惑させる行為の禁止です。頼んでいないシャンパンを勝手に開けて、後から料金だけ請求する。この形が明確に遵守事項違反として置かれました。卓上での提供判断が担当者任せになっている店では、ここが最も現場依存になりやすい部分です。
3つとも、違反した場合の入口は行政処分です。指示処分から始まり、従わなければ営業停止、さらに進めば許可取消しまであります。刑事罰の話ではないから軽い、という理解は危険です。営業停止は売上が直接止まりますし、許可取消しになれば店そのものが続きません。
威迫して困惑させる取立ての禁止
遵守事項とは別に、罰則つきの禁止行為も追加されました。法22条の2です。こちらは行政処分にとどまらず、罰則の対象になります。
禁止されるのは、客に注文や料金の支払等をさせる目的で、客を威迫して困惑させる行為です。ポイントは「料金の支払等」の範囲が広いことにあります。ここには、財産の預託——注文する予定の日時や種類を決めないままの前入金を含みます——や、支払に充てるための借入金の弁済、従業者が立て替えた場合の求償への弁済まで含まれます。
つまり、「ツケが残っているから今日中に振り込め」と迫るのはもちろん、「とりあえず先に入れておいて」と使途未定の前入金を威迫して集める行為、「俺が立て替えたんだから返せ」と迫る行為も、同じ条文の射程に入ります。売掛の回収局面だけを見て対策すると、前入金と立替の2つが抜けます。
あわせて、客を威迫し、または誘惑して、売春や性風俗店での勤務等によって金銭を得るよう要求する行為も禁じられました。立法の動機そのものにあたる部分です。
警察庁は、改正法による検挙事例を公表しています。SNSのメッセージに残った威迫の文言が端緒になった例もあります。店の外で、担当者が個人のアカウントから送った一通が証拠として残るということです。回収の連絡を個人の端末・個人のアカウントに任せている店ほど、店として何が送られたかを把握できない状態になります。
変わっていないこと(売掛・スカウトバック)
ここが誤解の多い部分です。まず、売掛(ツケ払い)そのものを禁止する条文は、今回の改正に存在しません。禁止されたのは、料金についての虚偽・誤認させる説明と、威迫して困惑させる取立てです。掛売りという支払方法そのものが違法になったわけではありません。
「歌舞伎町では売掛が全廃された」という話とセットで語られるため混同されやすいのですが、あれは業界団体による自主規制であって、法律による禁止ではありません。自主規制に参加していない地域・店舗まで法的に売掛が禁じられた、と読むのは誤りです。もっとも、法が禁じていない=運用が自由という意味でもありません。説明の仕方と回収の仕方が条文の対象になっている以上、売掛を続けるなら記録の残し方が問われます。この線引きと具体的な管理方法はホストクラブの売掛は禁止された?で詳しく扱っています。
もう1つ、訂正しておきたいのがスカウトバックです。「キャバクラもスカウトバック禁止の対象になった」と書いているネット記事を見かけますが、これは不正確です。スカウトバック(スカウトへの紹介料の支払い)を禁じる規定の名宛人は、性風俗関連特殊営業の営業者です。キャバクラやホストクラブのような接待飲食等営業は、この規定の名宛人ではありません。
この区別は実務上そこそこ重要です。名宛人を取り違えたまま「うちも違反になる」と誤解して社内ルールを組むと、本来やるべき遵守事項・禁止行為への対応が後回しになります。逆に、性風俗関連特殊営業を別に営んでいるグループであれば、そちらは名宛人にあたります。自店がどの営業区分で許可・届出を出しているかを起点に、どの条文が自分にかかるかを確認するのが確実です。
広告規制・罰則強化・欠格事由の拡大
広告についても変更があります。法16条の広告宣伝規制に関して、接客従業者の指名数や売上額といった営業成績、あるいは役職を殊更に強調する広告が、「清浄な風俗環境を害するおそれのある方法」の例として挙げられました。対象は店の外に向けた広告で、看板もWebサイトもSNSも含まれます。「今月No.1・売上◯◯万」という表示を外向けに出している店は、この観点で見直しの対象になります。
罰則は大きく引き上げられました。無許可営業等について、2年以下の拘禁刑または200万円以下の罰金から、5年以下の拘禁刑または1,000万円以下の罰金へ。法人に対する両罰規定は、200万円以下から3億円以下へ引き上げられています。金額の桁が変わったというより、法人に対する制裁の位置づけそのものが変わったと見るべき水準です。
そして、2025年11月28日施行の欠格事由の拡大。ここは多店舗・グループ経営に効きます。ポイントは3つで、親会社・子会社など密接関係法人が許可取消しを受けた場合に欠格が波及すること、警察の立入調査を受けた後に許可証を返納した者は返納から5年間欠格となること(処分逃れへの手当てです)、そして暴力的不法行為等のおそれのある者が事業に支配的影響力を持つ場合が加わったことです。
1店舗の取消しがグループ全体に波及しうる、という点は、これまでの感覚と大きく違います。系列の1店で起きた違反が、他店の新規出店や更新にまで影響する構造になりました。店ごとに現場任せで運用してきたグループほど、店舗間で点検の水準がそろっているかが問われます。
実際の行政処分は従来からの義務違反が大半
ここまで改正内容を並べてきましたが、統計を見ると別の景色が出てきます。警察庁が公表している令和7年の行政処分の内訳では、件数の上位を占めるのは改正で追加された事項ではなく、以前からある義務の不備です。
従業員名簿の備付義務違反が890件、従業者の確認義務違反等が539件、変更届出義務違反等が443件、構造・設備の維持違反が273件。名簿を置いていない、確認記録がない、届け出るべき変更を出していない、図面と現状が合っていない。処分の大半は、こうした「昔からある義務」でつまずいています。
これは示唆的です。改正対応として色恋営業の研修資料を作る前に、名簿と確認書類が揃っているか、変更届が出ているかを見たほうが、処分を受ける確率は下がるということです。実際に立入検査で確認される書類の範囲は立入検査で確認される書類にまとめています。営業時間についても同様で、許可区分ごとの時間ルールは夜のお店の営業時間ルールで整理しています。
運用実績としては、2026年2月18日に東京都公安委員会が色恋営業に関して全国初の指示処分を出しています(歌舞伎町の系列店)。新しい条文が実際に動き始めた、という意味では注目すべき事例です。ただ、件数の比率で言えば、まだ従来からの義務違反が圧倒的に多い。新しいリスクに気を取られて古い義務が抜ける、という順番だけは避けたいところです。
店舗で点検すべき項目に落とす
ここまでの内容を、店舗で回せる形にします。改正対応は「一度読んで理解する」ものではなく、日々の運用に埋め込んで初めて意味を持ちます。点検項目としては、次のあたりが軸になります。
- 料金表示と説明:店内掲示の料金表、口頭での説明、伝票に載る金額の3つが一致しているか。後払い・掛払いを扱う場合、総額と支払期日を伝えているか
- 注文と提供のルール:客の注文の意思表示を確認してから提供する手順が全員に共有されているか。卓上の判断が担当者任せになっていないか
- 広告表現:看板・Webサイト・SNSに、指名数や売上額などの営業成績や役職を殊更に強調する表示が残っていないか
- 名簿と確認記録:従業者名簿の備付け、接客従業者の確認記録、変更届の提出漏れがないか
- 回収連絡のルール:売掛・前入金・立替の連絡を誰がどの手段で行うか。個人のアカウントに任せていないか
- 研修と記録:遵守事項・禁止行為を全員に伝えたことを、いつ・誰に・何を伝えたかまで残しているか
最後の「研修と記録」が抜けやすいところです。朝礼で伝えた、LINEで流した。それ自体は多くの店がやっています。ただ、後から「いつ、誰に、何を伝えたか」を示せる形で残している店は少ない。指示処分の場面で問われるのは、店として周知と是正の体制を持っていたかどうかです。口頭で伝えた記憶は、そのときに証拠になりません。
この点検を紙のチェックシートで回すこともできます。ただ、店舗数が増えると、店ごとに項目の版が分かれ、記入済みのシートが束で積まれ、いざ「先月の◯日は誰が確認したか」と聞かれたときに探せなくなります。系列の1店の取消しが全体に波及しうる欠格事由の話とあわせて考えると、店舗間で同じ項目を同じ水準で回せているかを見られる状態には、それなりの価値があります。私たちは、その日々の点検を担当と履歴つきで積み上げるために開閉店点検システムを作っています。いまの点検表のどこが回っていないか、相談だけでも構いません。
よくある質問
2025年の改正風営法は、ホストクラブだけが対象ですか?
いいえ。追加された遵守事項(法18条の3)の対象は、キャバクラを含む接待飲食等営業の営業者全般です。報道はホストクラブ対策として扱われましたが、条文は業態を名指しで限定していません。料金についての虚偽・誤認させる説明の禁止、いわゆる色恋営業の禁止、注文の意思表示前に飲食を提供して困惑させる行為の禁止の3つは、接待飲食等営業であれば共通して適用されます。
改正風営法で売掛(ツケ払い)は禁止されましたか?
売掛そのものを禁止する条文は今回の改正に存在しません。禁止されたのは、料金についての虚偽・誤認させる説明と、注文や料金の支払等をさせる目的で客を威迫して困惑させる行為です。歌舞伎町の売掛全廃は業界団体による自主規制であり、法律による禁止ではありません。ただし説明の仕方と回収の仕方は条文の対象なので、売掛を続けるなら記録の残し方が問われます。
キャバクラもスカウトバック禁止の対象になったのですか?
いいえ。スカウトバックを禁じる規定の名宛人は性風俗関連特殊営業の営業者であり、キャバクラやホストクラブのような接待飲食等営業は名宛人ではありません。「キャバクラもスカウトバック禁止の対象になった」と説明する記事がありますが、不正確です。自店がどの営業区分で許可・届出を出しているかを起点に、どの規定が適用されるかを確認してください。
改正で罰則はどれくらい重くなりましたか?
無許可営業等について、従来の2年以下の拘禁刑または200万円以下の罰金から、5年以下の拘禁刑または1,000万円以下の罰金へ引き上げられました。法人に対する両罰規定は200万円以下から3億円以下になっています。追加された遵守事項(法18条の3)への違反は、まず指示処分から始まり、従わなければ営業停止、さらに許可取消しへ進む行政処分の枠組みで扱われます。
欠格事由の拡大で、多店舗・グループ経営は何に注意すべきですか?
2025年11月28日施行の欠格事由の拡大により、親会社・子会社など密接関係法人が許可取消しを受けた場合に欠格が波及します。また、警察の立入調査後に許可証を返納した者は返納から5年間欠格となり、暴力的不法行為等のおそれのある者が事業に支配的影響力を持つ場合も加わりました。1店舗の取消しがグループ全体の出店・更新に影響しうるため、店舗間で点検の水準をそろえておくことが実務上の備えになります。
改正対応として、まず何から手をつければいいですか?
警察庁が公表している令和7年の行政処分の内訳では、従業員名簿の備付義務違反890件、従業者の確認義務違反等539件、変更届出義務違反等443件、構造・設備の維持違反273件と、従来からある義務の不備が大半を占めています。色恋営業の研修より先に、名簿・確認記録・変更届・図面と現状の一致を点検するほうが、処分を受ける確率を下げる近道になりやすいです。そのうえで料金表示、注文確認、広告表現、回収連絡のルールを日々の点検項目に加えてください。
この記事の課題を、システムで解決するなら
「いつ、誰が確認したか」を記録で答えられる店にする
お店専用の開閉店点検システムなら、料金表示・注文確認・名簿・広告表現といった点検項目を店舗ごとに登録し、担当者がスマホで完了を記録して、未完了と申し送りを次の担当へ引き継げます。改正風営法への対応を朝礼の一言で終わらせず、いつ・誰が・何を確認したかを履歴として残せます。相談は無料で、導入前提でなくても大丈夫です。
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