「入店時に同意書へサインさせているから、うちの罰金は問題ない」。本人が納得ずくで署名していても、その理解がいちばん危ないところです。労働基準法は、当人の同意より優先して効く場面があるからです。

キャバクラの遅刻・当欠に対する罰金は、契約書の名称ではなく働き方の実態が雇用にあたるかによって、労働基準法16条・24条・91条に抵触する可能性があります。金額をあらかじめ決めておく取り決めそのものが問われる条文もあり、「同意書に書いてあるから合意済み」は反論の根拠になりにくいのです。

雇用区分や控除の適法性は個別事情で結論が変わります。問題になりやすいルールの中身から、罰金に頼らず遅刻・当欠の事実を記録して対応する方法まで、順に整理していきます。

キャストにも労基法が適用されることがある

まず前提から。労働基準法は「労働者」に適用される法律で、キャストは業務委託だから対象外、と整理している店は少なくありません。だがこの整理は、契約書の名前だけで決まるものではありません。シフトで出勤を管理している、時給制で払っている。こうした実態が指揮監督下の労働に当たると判断されれば、契約書の表題が「業務委託」でもキャストは労働者として扱われ、労基法が適用されます。

2025年6月25日、東京地裁はキャバクラのキャストについて労働契約の成立を認め、運営会社2社に計約2,000万円の支払いを命じました。シフト管理や時給制といった実態から、指揮監督下の労働と判断された事例です。契約形態と勤怠記録の関係はキャストは雇用か業務委託かで詳しく整理しています。ここでは「雇用と判断されれば、罰金にも労基法の枠がかかる」という前提だけ押さえておきます。

罰金に関係する労基法の3つのルール

キャストが労働者と扱われる前提に立つと、罰金の運用には主に3つの条文が関わります。

ひとつめが16条、賠償予定の禁止です。「遅刻1回につき1万円」のように、あらかじめ違約金や損害賠償の額を決めておく契約そのものを禁じています。ここで無効になるのは金額の高低ではなく、額を先に決めておく取り決め自体です。同意書に金額が書いてあること自体が、この条文に触れえます。

ふたつめが24条、賃金全額払いの原則です。働いた分の賃金は全額払わなければならず、給与からの一方的な天引きは原則としてできません。「罰金分を給料から引いておいた」という処理は、この原則に反します。

みっつめが91条、減給の制裁の制限です。就業規則にもとづく正規の減給であっても、1回の額は平均賃金の1日分の半額まで、複数回あっても総額は一賃金支払期の賃金の10分の1までと上限が決まっています。つまり、減給という手段が使える場合でも、青天井では引けません。

現場でよくあるアウト寄りの運用

条文だけ並べても現場では判断しづらいので、危うい運用を具体的に挙げます。「遅刻5分ごとに1,000円」「当欠1回3万円」「ノルマ未達で罰金」。いずれも額をあらかじめ決めている点で、16条の賠償予定の禁止に触れえます。

「罰金」という名前を使わずに、ドレス代やヘアメイク代を強制的に天引きする運用も、実質が制裁なら同じ問題を抱えます。名目を変えても、働いた賃金から一方的に引いている限り24条の全額払い原則がかかります。

いちばん重いのが、実際に働いた時間の時給までゼロにする扱いです。当欠したら出勤済みの分の給料も払わない、といった処理は、働いていない分は払わなくてよい(ノーワーク・ノーペイ)の範囲を超えて、働いた分まで没収しています。ここは特に、後から未払い賃金として問題になりやすいです。

店側の言い分としてよく出るのが、「同意書にサインさせている」「求人票にも罰金ありと書いた」「昔からこの業界の慣習だ」の3つです。だが16条や24条は、当人の同意や慣習より優先して効きえます。書面で合意を取ったこと自体は、これらの条文に触れる取り決めを有効にする根拠にはなりません。同意書があるから安全、という発想が、この分野ではいちばん通用しにくいです。

遅刻・当欠にどう対処するか

では遅刻や当欠を放置しろということではありません。使える手段の中でやる、という話です。

金銭的な制裁を入れるなら、減給は91条の枠内で、ルールを書面化して全員に周知したうえで運用します。額を先に決め打ちする罰金ではなく、上限のある減給として設計します。ここでいう上限は、1回の額が平均賃金の1日分の半額まで、複数回あっても総額が一賃金支払期の賃金の10分の1まで。この枠を超えれば、就業規則にもとづく減給であっても制限に触れます。

ただ、現場の実感として、金銭ペナルティは当欠をあまり減らしません。罰金を払ってでも来ないときは来ないものです。効くのはむしろ、当欠の記録を残して面談で事実を確認し、評価やシフトの優先度に反映する運用のほうです。誰が、いつ、何回休んだかが記録として残っていれば、感情ではなく事実で話ができます。「先月3回入れなかったから、来月は指名の入りやすい枠は先に埋まる」と説明できる店ほど、罰金を課す店より当欠が落ち着くものです。当欠が起きる構造とペナルティに頼らないルールの組み立ては当欠が減らない店のシフトルールにまとめています。

そのうえで、支給と控除のルールを給与明細で見えるようにしておきます。何を、どういう根拠で引いたのかが本人に説明できる状態なら、そもそも「罰金だ」という受け取られ方をしにくいです。この明細を毎月手で組み、引いた根拠をそのつど口頭で説明し続けるのは、人数が増えるほど重くなります。私たちは、その手間ごと「説明できる明細を残す」ところを給与計算システムで引き受けようとしています。適法かどうかを保証する仕組みではありません。何をどう引いたかを本人に示せる状態を、記録として作る仕組みです。

過去の罰金は返金請求されうる

いま揉めていないことは、安全の根拠になりません。違法な天引きは、後から未払い賃金として請求されうるからです。在籍中は言い出せなかったキャストが、辞めたあとにまとめて請求してきます。同意書があっても、16条や24条に触れる取り決めは無効と判断される可能性があり、「本人が納得していた」という反論は通りにくいです。

「これまで何年もこの罰金でやってきて問題なかった」は、請求が来ていないだけかもしれません。過去にさかのぼって請求される余地がある以上、続けてきた年数は防御になりません。むしろ長く運用してきたぶん、対象人数も金額も積み上がっています。一人あたりの天引き額が小さくても、在籍した全員が母数になれば総額は跳ね上がります。気づいた時点で、罰金という設計そのものを、上限のある減給と記録・面談の運用に置き換えていくのが現実的です。すでに徴収してしまった分をどう扱うかも含めて、続けるほど清算は重くなります。早いほど傷は浅い。

よくある質問

業務委託契約なら罰金を設定しても問題ないですか?

契約書の名称だけでは判断できません。シフト管理や時給制など実態が指揮監督下の労働にあたると判断されれば、契約が業務委託でも労働基準法が適用されうるとされています。個別の判断は弁護士や社会保険労務士に確認してください。

すでに集めてしまった罰金は返さないといけませんか?

労働基準法に抵触する取り決めは無効と判断される可能性があり、後から未払い賃金として請求される余地があります。同意書があっても反論の根拠になりにくいため、早めに専門家へ相談し、対応方針を検討することをおすすめします。

罰金の代わりに何をルール化すればいいですか?

上限のある減給として設計するか、当欠・遅刻の記録を残して面談や評価・シフト優先度に反映する運用が現実的とされています。いずれの場合も、制度化の前に弁護士や社会保険労務士へ確認することが望まれます。

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